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【第2回神戸賞】授賞式及び記念講演会とサイエンスカフェを実施

須磨海浜水族園は、「神戸賞」という顕彰制度を創設して、水圏生物学の分野、特に海洋生物を対象に優れた業績をあげた研究者を表彰するとともに、受賞者を神戸に招きその研究成果を市民にわかりやすく紹介する機会を設けています。選考委員会による厳正な審査の結果、今年の受賞者には、シーラカンスの生態について研究した、ドイツのハンス・フリッケ(Hans Fricke)博士が選ばれました。

5月27日の午後にホテルオークラ神戸にて開催した授賞式および記念講演会には、事前申し込みをした参加者約200人が集まりました。授賞式に引き続き、フリッケ博士は、約1時間半にわたりシーラカンスの生態や研究にまつわるエピソードを紹介。会場からは「シーラカンスから我々人類は何を学ぶことができるか」といった質問まで飛び出し、大いに盛り上がりました。
また、これに先立ち26日は水族園のエントランスホールにてサイエンスカフェを開催し、「行動生態学とはーナチュラリストの視点―」と題して、フリッケ博士がかつて取り組まれた、サンゴ礁の魚類の行動や生態に関する興味深い研究について、動画を交えてご紹介いただきました。

 


◆第2回神戸賞◆

【受賞者】

Professor Dr. Hans Fricke
(マックスプランク海洋微生物研究所/ライプニッツ海洋研究所)

 

【対象研究】

「シーラカンスの行動生態および生活史の解明」

 

【受賞者紹介】

 

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1941年、ドイツ・シェーネベック生まれ。1961年、ベルリン自由大学に入学し、動物学を専攻。フロリダのケープ・ヘイズ臨海実験所(現・モート・マリン臨海実験所)や紅海などで、サンゴ礁に生息する生物の潜水観察と行動生態研究に取り組み、1968年に博士号を取得。指導教官は、「刷り込み」の研究などで知られる動物行動学の創始者にしてノーベル賞受賞者のコンラート・ローレンツ博士。
ヘブライ大学臨海実験所、バハマの米国水中実験室「ハイドロラボ」、アルダブラ環礁などをフィールドに、飽和潜水等による圧倒的な生物観察と、それに基づき組まれた明快な水中実験により、サンゴ礁に生息する動物たちについて、体色パターン、性転換と繁殖システムなど、行動生態学、心理学的側面から興味深い研究を次々と展開。そのエッセンスを紹介した著書「Bericht aus dem Riff」(邦訳版「さんご礁の海からー行動学者の海中実験ー」)に感銘を受けて魚類行動学、社会生物学を志した研究者は数知れず。 

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その後、J.L.B.スミス著「Old Fourlegs」(邦訳版「生きた化石 : シーラカンス発見物語」)を読んで子供の頃に抱いた夢を実現するべく、独自に潜水艇「GEO」を開発し、シーラカンスの捜索に挑む。1987年、コモロ諸島沿岸で、世界ではじめて生きたシーラカンスの観察・撮映に成功。以後、21年間におよぶ研究の中で、独特の遊泳行動、日周行動、ゆるやかな成長、100歳にもなる寿命など、シーラカンスの生態を次々と解明。

 

  

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飽和潜水と1000回におよぶ潜水艇調査だけでも水中滞在時間は1万時間を超える。ウナギの研究でも知られ、日本の研究グループとも共同研究を行ってきた。水中映像の製作も数多く手がけ、受賞多数。執筆した学術論文136編のうち10編は世界で最も権威のある科学雑誌「Nature」に掲載。マックスプランク研究所の外来研究員、ヘブライ大学客員教授、ミュンヘン大学客員教授などを歴任。

 

 

 

【総評および選考理由】
今回の審査では、まず昨年公表された研究論文の中から5編が選考委員によりノミネートされ、次に選考委員による協議によりその中から最も相応しい研究が神戸賞として選出された。ノミネートされた研究内容は以下に示す通り、対象は無脊椎動物から鯨類まで、分野も分類、生態、行動、生理、進化など多岐におよび、いずれも高い独創性の認められる優れた研究であった。
・ ハクジラ類の行動
・ 無脊椎動物における新たな分類群の記載
・ 魚類の視覚とコミュニケーション
・ ウミヘビの生理
・ シーラカンスの生態
選考の際に特に重視した点は、従来の概念を覆すものであること、水圏生物学以外の分野にも影響する高い学術性が認められること、水圏生物に対する市民の興味や関心を駆り立てる内容であること、である。
最終的に神戸賞に選ばれたHans Fricke博士の研究は、シーラカンスの生態の解明である。
シーラカンスは、発見以降、標本を対象にした解剖学的研究こそ行われたが、その生態についてはほとんど未解明のままであった。これに対して、Fricke博士は、自ら開発した潜水艇で生きたままのシーラカンスを直接観察することにはじめて成功し、その後も21年間にわたり調査を継続してきた。その中で、独特の鰭の使い方や、海底で逆立ちするような行動、活動の日周性など、様々な生態を次々と明らかにしてきたほか、斑紋の特徴から145匹を識別し、その再発見の状況に基づき、グランド・コモロに生息するシーラカンスが300-400匹程でしかないことや、100歳を超える長寿であることなどを明らかにした。
化石種の形態を色濃く残し「生きた化石」と呼ばれるシーラカンスの生態解明は、脊椎動物の進化の過程を探るうえで重要な手がかりとなるばかりか、分類学や古生物学、進化生物学などにも影響を及ぼす優れた学術的価値が認められる研究成果である。生息数が少ないことや、深い海に生息していることなどの困難を乗り越えて、21年間にわたり調査を成功させたことは驚異的であり、次々と明らかにされるシーラカンスの興味深い生態やその映像に、世界中の人々は水圏生物に対する興味と関心を駆り立てられてきた。ダイナミックかつロマンに満ち溢れた研究過程とその成果は、講演会や水族園での展示を通じて、広く市民に水族研究の魅力を啓発するのに適した内容と考えられ、神戸賞に値すると判断した。

 

【選考委員】
朝倉 彰(京都大学瀬戸臨海実験所教授兼所長/付属白浜水族館館長)
幸島司郎(京都大学野生動物研究センター教授)
幸田正典(大阪市立大学大学院理学研究科教授)
佐藤克文(東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター准教授)
亀崎直樹(神戸市立須磨海浜水族園園長/東京大学農学生命科学研究科客員教授)

 

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受賞者ご夫妻と選考委員

(左から順に亀崎園長、佐藤先生、幸田先生、幸島先生、フリッケ博士、フリッケ夫人)

 

シーラカンスをモチーフにした今回の

受賞記念トロフィー(作:こしだミカ)

     
     
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こだわりの記念トロフィーを紹介する亀崎園長と

大うけするフリッケ博士

   
     
     
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フリッケ博士の偉大な足跡について熱く紹介する

大阪市立大学教授幸田正典先生

 

「さんご礁の海からー行動学者の海中実験ー」を

翻訳した日本大学教授中嶋康裕先生

     
     
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記念講演をするフリッケ博士    
     
     
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フリッケ博士の講演に熱心に聞き入る参加者   フリッケ博士を囲んで参加者での記念撮影
     
     
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懇親会で乾杯後のスピーチをするフリッケ博士

左は乾杯のご発声を頂戴した兵庫県立大学教授太田英利先生

 

5月26日に開催したサイエンスカフェで

行動生態学について講演されるフリッケ博士

     
     
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石西礁湖潜水調査の一コマ

前列中央が亀崎園長とフリッケ博士